病院長挨拶
動物飼育者様の御理解と御協力へのお願いをこめて
<夜間救急動物病院誕生のお話>
岐阜県獣医師会夜間救急動物病院が開院して4ヶ月が経ちました。
『あなたの大切な家族をいつも見守りたい』
開院をお知らせするポスターに掲げましたこの標語に、我々の願いの全てが込められています。またこの一行は動物の飼い主さんへのメッセージであると共に我々獣医師が日頃思い悩んでいる悔しさの発露でもあるのです。
日本の動物病院のほとんどは一部の例外を除いて1名の獣医師と2,3名の看護師によって運営されています。いわば零細企業の代表とも言えるこの陣容で日々多様化する動物飼育者の要望に応えていくことは容易ではありません。特に夜間の救急患者へのフォローは我々臨床獣医師にとって何年も前から焦眉の課題でした。個々の病院の限界を超え、病める動物たちの緊急事態に如何すれば応え得るのか。日頃頼りにしてくれているペット達、信頼を頂いている飼い主の皆さんに何時如何なる時も良質な獣医療を提供するには何をすべきなのか。我々は臨床獣医師としての責任、職業人としての誇りに拘り、悩み続けてきました。又岐阜県獣医師会開業部会は数年前から全国の夜間病院に調査員を派遣し、研究を行ってきました。
東京、大阪、名古屋など大都会では既に何年も前から夜間救急病院が開設され、順調に運営されています。しかし名古屋を例に取れば市内人口は200万、周辺の人口密集地を含めれば顧客人口は優に300万人を超します。それに比べ岐阜市内人口は40万、半径30キロ以内でアクセスが容易な人口を入れても100万人を僅かに超すに過ぎません。
果たして岐阜のような地方都市で夜間動物病院が成り立って行くのか。夜間救急に対する要望はもう無視できないところまで来ているとしても、病院を維持できるだけの需要があるのか。これが誰も予知し得ない最大の難題でした。悩み抜いた結果が、言わば眼を瞑って飛ぶ事でありました。少なからぬ負担を引き受ける覚悟であったと思います。
『夜も動物たちの安全と福祉を確保する。飼い主に安心の夜を提供する』
只この2点を実現するため我々は何も無い所から出発しようと決心したのです。個々の病院、個人の事情は一先ず置いて、社会の要望を第一に考える多くの仲間が集まりました。しかし開業部会の事業方針として位置づけ、社団法人岐阜県獣医師会がその運営に責任を持つと決めたものの、開設資金はありませんでした。
各病院に設立資金としての寄付を募り、充分なスタッフの確保が難しい開院当初の経営をバックアップする為に、多くの病院長にローテーションでの無給サポートをお願いする。個々の病院にとって何の直接利益にも繋がらないこの『無茶な構想』を、80名もの病院長が、開業部会構成員の過半数を遥かに超す仲間が快諾し病院建設が始まりました。
私財を投じてテナントを提供してくれた人、赤字ギリギリの予算で病院改装工事を引き受けてくれた建設会社、身を粉にして値打ちな医療器械を探していただいたディーラー、新聞広告に協賛いただいたメーカー、そしてこのホームページ自体が無償提供なのです。
私はこの世の中は善意に満ちているとこの時はっきりと実感したのです。この確信をこの病院の基本としていきたいと思います。深夜来院する患者さんは全て善意から発していると考えます。善意にはそれに倍する善意でもって応えて行くことを岐阜県獣医師会夜間救急動物病院の基本理念としたいと思います。
そしてもう一つ、多くの飼い主の皆さんに知って頂きたい夜間病院誕生にまつわる悲話があります。今年の春、共に夜間病院の夢を語り合った我々の仲間である佐久間一也先生(岐阜市、サクマ動物病院)がお亡くなりになりました。御遺族の御希望によりサクマ動物病院の医療器具機材の多くが夜間病院に寄付されています。この病院は志半ばで倒れられた佐久間先生の獣医療にたいする熱い情熱を受け継ぐ使命も負っています。
飼い主の皆さんにお願いがあります。
『こんな地方都市で夜間救急病院が存続、維持できるか』
この岐阜県での夜間救急病院の動向を全国が注目しています。この成否は日本の獣医療の将来を見通す事になるのです。
『全国隅々に獣医療の光を・・・』
こんな壮大な命題への挑戦が始まりました。
当面常勤の獣医師1名、動物看護師2名それにサポート獣医師1名の4人体制で診療に当たっています。重症の患者さんは翌朝まで看護し、責任を持って主治医の病院に引き継ぎます。又救命救急獣医療には高度な設備が必要です。現在でも市中の動物病院以上の医療器械を揃えておりますが、更なる高度医療設備がまだまだ必要です。年に1~2回しか使用しない機器であってもそれで救われる命があるならば、それを揃えるのが我々の責任と考えます。
しかし残念な事に夜間救命救急には人件費、設備費をはじめ多くの経費が嵩みます。そこで今しばらくの間、皆さんには市中の動物病院よりかなり割高な診療費をお願いせざるを得ません。
そして我々もあくまでボランテア事業として病院の運営に当たります。この病院は一切の利益を出しません。黒字の全ては更に『もう一つの命』を救う為の設備投資に使用されます。夜間の急病なんて起きて欲しくありません。でも緊急時には夜間救急動物病院を是非活用してください。
この病院は皆さんの利用によって成長していきます。あなたの利用が『明日の小さな命』を救う事になると思うのです。
御理解、御協力をお願いします。
岐阜県獣医師会夜間救急動物病院
病院長 石黒利治
